【求人】舊第七號隧道メンテナンススタッフ【存在しない求人】

トンネルメンテナンススタッフの求人記事のアイキャッチ画像

今回募集する「舊第七號(だいななごう)隧道メンテナンス」は、通常の土木保全の枠外にある業務です。

公式の道路台帳には該当するトンネルは記載されておらず、地図にも標示されません。現地の古老は「昔は第壹から第拾参まで山腹に穿った」と語りますが、記録は散逸し、確認可能なのは“跡”だけ――のはずでした。

それでも、特定の手順を踏んだ者にのみ、出現する隧道が存在します。場所は「某地方高速道路の一部退避帯」から、あるいは「某地の山道」から。それが舊第七號隧道です。

奇妙なことに、この隧道は「本来、辿り着けない場所」であるにもかかわらず、正規の手順を踏まないのに迷い込む者がいます。彼らが目にする第七號は、なぜか開通中で、奥から車のヘッドライトが迫ってくる――という証言が複数残っています。

私たちの業務は、その“出現する隧道”を定期的に点検し、壁面の剥落・湧水・換気シャフト・標示板の状態を確認し、側道先のフェンス内に設置された井戸の封印が破れていないかを監視することです。

表向きは点検ですが、実際には隧道網(第壹〜第拾参)全体の「目覚め」を抑えることが目的です。

あなたは、この求人に応募する覚悟がありますか。

山中設備管理/案件番号:舊第七號‐MNT‐017

目次

仕事の概要

お仕事の概要と書かれた画像

目的:舊第七號隧道の定期メンテナンスおよび付帯設備の封鎖状態の確認。

頻度:月次(※出現頻度に応じて臨時招集あり)。

主な作業

• 入口ポータルの視認と写真記録(夜間/薄暮帯のみ)

• 壁面(巻厚)と路面(クラック・湧水)の目視点検

• 側道のフェンス施錠状態の確認(専用鍵の点検)

• フェンス内の井戸の封を「見ずに確かめる」儀式手順の実施

• 「開通中」表示の有無確認(※表示が出ている場合、進入禁止

• 報告書の即時記入(青インク使用、写真はモノクロ設定)

到達経路

• Aルート:某地方高速道路の「名称未掲示」の退避帯から。速度を落とさず通過し、左側の防音壁に刻まれた**旧字体の“七”**を目印に、所定の合図を行う。

• Bルート:某地の山道。鎖のかかった作業路の手前で停車せず徐行、右カーブの外側にある折れ杉の切り株を見ないまま通過し、耳鳴りが始まった地点で歩行に切り替える。

※いずれも具体的な手順(回数・間隔・合図の内容)は採用後に伝達します。一般公開の文書には記しません。

正規手順の概要

• 合図は三拍で完了すること。四拍目を無意識に打った場合、業務は中断し撤収。

• 入口に掲げられた銘板の表記が「舊第七號」であることを必ず確認。“旧第七号”の新字体が見えた場合、それは正規ではありません。

• 進入時は右足から。帰路は左足から。足並びが崩れた場合の記録が複数あり、いずれも報告書の時刻が逆行しています。

勤務地・環境

• 山腹の岩盤を抜いた素掘りと巻き立てが混在する隧道。奥行きは計測のたびに変動(20m〜不明)。

• トンネル内には照明設備がないはずですが、正規手順から外れた場合に限り、“開通中”の青白い照明と走行音が確認されます。

• 右壁面途中から側道が分岐。数メートル先にフェンス。専用鍵でのみ開錠可。フェンス奥に石積みの井戸があり、蓋は鉄製(鉛封印)。

• 気温は外気より低く、湿度は常時90%以上。潮の匂いがする夜は出現率が高い傾向。

求人条件

求人条件と書かれた画像

応募資格

• 狭所・暗所・低温・高湿度環境に耐性のある方

• 指示を厳密に守り、数を数えない訓練に従える方

• 反復音(足音・滴下音)の位相ズレに動揺しない方

• 報告書を即時・正確に記入できる方(比喩表現禁止)

待遇

日当:5万円〜(危険手当・夜間手当別)

• 交通・宿泊費支給、送迎あり、制服・ライト・記録帳・専用鍵(担当者のみ)貸与

• 勤務完了=帰路で同じ足から地表へ出る+報告書提出の双方を満たした時点。いずれか不履行の場合、支給不可。

年齢:20歳以上(酒精を用いた清め儀式のため)

求人数:若干名

注意事項(必読)

注意事項と書かれた画像

以下は過去記録に基づく必須ルールです。違反した担当者の多くは、帰社確認が取れていません。また、一部は別名義で名簿に重複登録されています。

1. 「開通中」表示が出ている場合、進入禁止。

 ヘッドライトが奥から近づいて見えるのは、こちら側ではない車線です。進入した担当者の携帯記録は、走行音だけを残して終わっています。

2. 足音が一歩遅れて響く現象は無視し、歩調を崩さない。

 遅れに合わせて速度を変えた例では、帰路で同行者が一人増える事象が発生しました。点呼・口頭での人数確認は禁止、写真のみで確認します。

3. 壁の釘に吊された“古い値札”を見つけても触れない。

 値札に記された額面は前回報告書の時刻と一致する傾向があります。剥がした担当者の報告時刻は、前回の勤務日に置換されていました。

4. 側道のフェンスは、鍵を開けてから十数える前に必ず再施錠。

 ※ただし声に出して数えないこと。井戸の蓋は視認せず、手袋越しに重さと冷たさで封の状態を確認します。

 井戸の中から風が上がった場合は、息を止めて三拍の帰還合図。覗き込んではいけません。覗いた者の瞳孔反応は戻りましたが、視線の焦点が井戸の位置に固定される症状が続きました。

5. 銘板が新字体(旧第七号)で、しかも入口が明るい場合は撤収。

 それは正規ではありません。その先で撮影された写真には、シャッター音の回数より一枚多い画像が保存されています(いずれも奥から灯火列が接近)。

6. 滴下音が三つのリズム(短・短・長)になったら作業中断。

 その拍でノックが返るとの記録があり、扉のない場所で扉が開いた音が続きました。スタッフは全員、同じ位置にいたはずなのに出口の方角の証言が一致しないまま覚醒。

7. 報告書は青インクのみ。黒・鉛筆は禁止。

 黒で記入した用紙は翌朝白紙に戻る例が多発。青も一部で薄れますが、文字の凹凸が残るため復元できます。

8. 正規の手順を知らない同行者が列に加わっても、点呼しない。

 声に出して数えると、余剰が固定化します。帰社後のカメラロールに**“知らない背中”**が混在する例が報告されています。

9. 撤収時、出口の外から自分の名を呼ぶ声がしても振り返らない。

 声に応答した者は、出口で左右の足順が逆になっていました。報告時刻は正午を示すのに、影は朝の角度

10. 井戸の蓋に“濡れた掌”の跡を見つけた場合、合図なしに撤収。

 封印の破損ではありません。内部からの確認です。続行した例では、フェンスの鍵に見覚えのない刻印(第玖號/第拾壱號)が出現しました。

体験談と勤務記録(抜粋)

体験談と書かれた画像

M‐07(薄暮):入口銘板「舊第七號」確認。奥行き約30mで終端。側道フェンス施錠正常。井戸蓋冷、封 intact。撤収時、退避帯で高速側が一時的に無音化。

K‐21(夜間・潮臭):「開通中」表示。白色照明の点滅と走行音。進入せず撤収。車載カメラ、録画に一台分のヘッドライト軌跡が重畳

S‐02(雨後):滴下音リズムが短短長に変化。側道フェンス錠に指紋のような濡痕。井戸付近温度低下。撤収合図実施、問題なし。

A‐14(晴・新月):同行者の足音の位相ズレ。出口で点呼せず写真確認。画像に見覚えのない長靴が一足分写り込み。装備品点検で該当なし。

連関事項(第壹〜第拾参)

第七號は網の中間点に位置するとみられます。第壹・第弐は完全消失、第参・第肆は胸壁のみ残存、第伍は林道化、第陸は水没。第捌~第拾参は未確認。

いずれの地点でも「側道→封鎖→井戸」の痕跡が断片的に現れ、封が破れた形跡は現在のところ第七號のみで繰り返し観測されています。

終わり

最後にと書かれた画像

以上が「舊第七號隧道メンテナンススタッフ」の募集内容です。

現実の土木点検と同じ手順で始まり、同じ帳票で終わります。違うのは、**到達そのものが“条件付き”**であり、正規の手順から一歩でも外れれば、そこは“開通中”の別路線に接続してしまうという点だけ。

この求人は、現実には存在しないはずです。

けれどもあなたが山道で、あるいは高速道路のどこかで、旧字体の「七」を刻んだ汚れた防音壁を見つけてしまったなら――どうか、立ち止まらないでください。振り返らずに通り過ぎ、数を数えず、声に出して名前を呼ばないでください。

三拍で十分です。四拍目を打つ必要はありません。こちら側の路線は、あなたが思うよりも薄いのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次